先鋭化したtwitter民やLINE Out炎上に見るネットリテラシーの変遷(超主観)


熊本県熊本地方を震源とする地震では、多くの方が被災されました。お見舞い申し上げます。また、地震発生翌朝の時点で死者が出ているとのこと、心よりお悔やみ申し上げます。今回の震災について、技術者として思ったこと、どうしても後世に残しておきたいことを書いておこうと思います。

まず、今回の震災は、「SNSが相当数普及した日本でまた大震災がおきた」ことが特徴的だと思っています。記憶に新しいのは東日本大震災でしたが、当時のTwitter、facebookなどSNSでは良かれ悪しかれ多くの人がいろんな情報をシェアしたりしたものです。また、Googleがパーソンファインダーをリリースしたりするなど、サービス提供事業者がすぐにアプリをリリースしたのも記憶に新しいです。当然、個人が発信する情報の中には、意図したものやそうでないものも含め、いわゆる「デマ」が瞬時に拡散されたケースも少なくありません。

■ デマに強くなったtwitter民と先鋭化したtwitter民

こうした経験を経て日が浅い(少なくとも当事者が代替わりしない程度)うちに発生した震災ですので、個人が発信するデマへの耐性、ネットリテラシーは私の見る限りでは向上したのではないかと思っています。例えるなら、瞬時に「お前それデマだろ」とフルボッコにするケースが散見されたので、無批判にデマを受け入れ、拡散する人は減っているように感じます。

しかしながら、東日本大震災とそれに伴う福島第一原発事故を契機に、反原発を声高に主張する人たちの声が大きくなったのも事実です。原発の良し悪しについてはここで論じませんが、首相官邸に「川内原発今すぐ止めろ」と電話してきたと電話番号つきでつぶやいたアホがいて、予想の斜め先どころか全くの予想外な出来事に、間違った正義感ほど怖いものはないと思うことしきりです。01)これです。ヒドいですよね。

が、これはまだ個人がやったことなので、どうでもいい(よくはないが)珍事で、ただただ当直の職員さんお疲れ様としか言いようがなく。民進党については、後述するLINE Out炎上でそれどころじゃなかったので見てもいませんでしたが、普通の企業や団体の公式アカウントではまずあり得ない雑っぷりとだけしか言えず、論評に値しません。

これらの状況から、私の見立てでは、大多数のマジョリティはデマ耐性が少しずつついている、つまり情報の受けてとして訓練されている反面、そんなのお構いなしにこうした災害を利用して己の主張を間違った方法で通そうとし、その手段としてtwitterを使う人や団体が先鋭化しているようにも感じます。前者は正しい学習で、後者は間違った学習をしてしまった、その結果が二極分化しているのではないでしょうか。ここまでのまとめは

  1. 総じて情報の受け手側の大多数はリテラシーは向上が見られる

  2. 一方で、意図してデマや個人の主張を飛ばす側は先鋭化している

といったところでしょうか。民進党のケースは、団体の名前でやったこととは言え、どうせ中の人が独断で暴走したのだろう、というのが私の見解なので、個人のつぶやきの先鋭化と同列に語りました。さて、次はちょっと頭の痛いケースです。


■ 企業の勇み足 LINE Out炎上

上記「デマに強くなったtwitter民と先鋭化したtwitter民」では個人や団体の中の一部のリテラシーについて語りました。東日本大震災のときには見られず、今回新たに発生したケースとしては、LINE Out炎上が私の中で一番頭を痛めた事案です。

● LINE Out炎上とは

別にベッキーのセンテンススプリング炎上のことではなく、今回の震災直後にLINE公式アカウントが発した

LINEから固定電話・携帯電話にかけられる「LINE Out」機能で、日本国内の番号への発信を1通話最大10分まで無料化しました。家の電話やLINEでつながっていない方への安否確認にご活用ください。 #熊本 #地震 #拡散希望

というつぶやきです。

先に結論を書きますと、後述する理由でLINE公式は、

安否確認の連絡は、まず通信量の少ない災害伝言板やLINEトーク等をご利用ください。先ほどご案内したLINE Outは回線に負荷が集中する恐れがあるため、緊急性が高い場合のみご利用いただくようご協力をお願いします。#熊本 #安否確認

と訂正しています。02)これでもアナウンスとしては力が足りないとは思っていますが。緊急性が高いって、みんな思ってますよ?

● LINE Out 国内発信 1通話最大10分無料化の何がいけないのか

まず、LINE網の中だけでこれをやる分には一向に構わないと思っています。つまり、サービス提供事業者1社が責任を取れる範囲であれば、たとえ通話の輻輳など障害がおきたとしても、他社に迷惑をかけることはありません。しかし、LINE Outを震災直後のタイミングで開放したということは、LINE網から他社網に向けて多数の呼を発することを意味します

震災当初、日本の電話通信網に何が起こったか、をおさらいしておきますと、東日本大震災と同様、被災地ではない地域から被災地域に向かった通話発呼が殺到し、いわゆる「輻輳」、通信障害が発生していました。今回の通信障害状況を首相官邸サイトにアップされた「平成28年(2016年)熊本県熊本地方を震源とする地震 非常災害対策本部会議(第1回)議事次第」(PDF)から引用しますと、2016/04/14 21:56時点で

・通信の状況:熊本県方面の電話が大変混み合っている。
固定電話:被害情報なし。
携帯電話等
NTTドコモ:サービス中断はあるが、おおむね周辺局でカバー。輻輳発生。
KDDI:被害情報なし。
ソフトバンク:詳細確認中。
UQコミュニケーションズ:熊本県5局停波。

と、総務省から報告されています。

一般的に、大震災などが発生した際の電話輻輳は、被災地「へ」向けた安否確認の通話がほとんどを占めます。なので、全国47都道府県(や海外)から1県または数県に向けて通話が集中するような状況ですね。つまり、こうした状況にある中、LINEは他社回線に向けて、さらに負荷をかけるようなサービスをリリースしてしまったわけです。

● LINE Outを肯定的に報じてしまったメディア

LINE Out通話開放だけでも迷惑なのですが、NHKをはじめ多くのメディアが上記ツイートを報じていました。さすがに今となってはLINE Outが勇み足だったという論調のWEB記事が目立ちますが。なので、LINE Out炎上はLINEだけの問題ではなく、メディア側のリテラシーも問題視すべきだと私は思います。速報としての価値だけでなく、ちょっと考えればそれが他社に迷惑をかけるのではないか、といった視点がメディア側に欠けていたのではないか、という観点です。

■ LINEがこんな簡単にサービスリリースできたのにキャリア側は何してたの?

ここまで読んで、電話網の知識がない人はこう思われたかも知れません。LINEのようなIP網であれば、クラウド上に基盤を構築して、負荷に合わせてサーバーやネットワークをスケールさせればよいのですが、固定電話や携帯電話網の設備はIP網が発達するより前に、高価で特殊なハードウェアを1局1局に設置しているため、LINEのように簡単に新サービスをリリースできるわけではありません。

また、これら設備のほとんどは、いわゆる3キャリア(NTT、KDDI、ソフトバンク)が持つ固定網と移動網(携帯電話網)のキャパシティがだいたい読めていた時代に作られており、後発のIP網からどれだけ発呼があるのかまでは要件に含まれていませんでした。

なので、普通に考えれば、他社網へ大量の呼が発生するようなサービスを企画した時点で、キャリア間で調整を行うはずですが、震災からたった2時間でそんなことできるはずがありません。それどころか、自社のサービス障害対応で手一杯だったのです。これは憶測の域を出ないのですが、恐らくLINE側は、自社の顧客に対する課金に関するパラメータを弄っただけではないでしょうか。

電話網に関する知識を持ったエンジニアであれば、LINE Out通話開放のようなサービスをリリースしようとは思わなかったでしょう。また、固定網が「当たり前」だった世代が高齢化し、インフラが「どこにでもある」「金の力ですぐに増やせる」という感覚を持ったクラウドネイティブ世代が台頭してくると、いわゆる「クラウド」vs「レガシーインフラ」のこうした騒動が再発するのではないかと懸念します。

しかし、まだサービスリリースを行う決済権を持った世代がここまで若返ったわけではないと思われるので、恐らくは功を焦ったか、トップダウンの指示でやらざるを得なかったのではないでしょうか。たまたまTwitterを見てたら、よしたにさんが「雑な善意」と形容していて、ものすごくハラオチしました。

■ 雑な善意に見る日本人のメンタリティ

まず、もともと日本人は「いい話に弱い」という特徴があると思っています。これがどういうことかと言うと、

  1. これは善、正しいのだからそれに異を唱えるなんて論外だ。

  2. 善意でやってることだから結果は知ったことではない。

  3. いい話なのだから、それが本当か嘘かなんてどうでもいい。それがパクリでも構わない。

  4. 自分の懐を痛めず手も汚さずにできることは善意の拡散だ。

こうした善意を無批判に受け入れてしまうのが「いい話に弱い」の一言に収斂されるのではないでしょうか。上に挙げた例は、番号が若いほど昔からある論調だとも思っています。あと、勧善懲悪に弱いですよね?つまり、絶対的な善というものが存在し、いかなる理由であれそれに歯向かう者は悪である、だから懲らしめなければならないのだ、的な奴ですね。

善意というものが正しく機能しているうちはよいのですが、時にそれが間違った正義感として暴走したり、同調圧力的に善への賛意を強制されたりすることもあるので、絶対的な善というのは本来存在せず、ある一線を超えたらそれは善意の暴走になってしまうのです。03)よくある話としては、断片的な情報で特定の個人をフルボッコに叩いてしまうような現象ですね。

善が正しく機能しない、というのは、まさに「雑な善意」そのものであり、個人が雑な善意を撒き散らす分には無視するなり適度な距離を置くなりすればよいのですけれども、企業や団体がこうした「雑な善意」でやらかしてしまうのは、東日本大震災には見られなかった新しい事象ではないでしょうか。

■ では我々はどうすればよいのか?

そもそも「何をするか」という一辺倒の時点で間違いです。少なくとも、警察や消防、自衛隊や海上保安庁をはじめ、災害救助に携わる方々は皆プロなのです。プロにできることはプロに任せましょう。彼らは平時から訓練を積んでいます。政府や自治体の職員も然りです。決してその場のポッと出の思いつきなんかではないのです。

それでも、どうしても自分が何かをしなければ、と思うかも知れません。しかし、それが独善的ではない、と100パーセント言い切れる自信はありますか?普段通りに働いて、税金を納めるだけでも社会参加なのです。消費税を支払うだけでもよいのです。もちろん、自分の意志で募金したりボランティアに参加しても構いません。それは自分のできる範囲でよいのですし、言い換えれば、自分のキャパシティを正しく理解した上でやりましょうね、ということなのです。

■ エンジニアとしてサービス企画側にお願いしたいこと

思いつきで変なもんリリースしようと言い出すのやめろ」とヘイトを撒き散らすのは簡単ですが、言い出しっぺはそれが変なものかどうか理解できないからこうした事案がおきてしまうのです。また、迷惑をかけたくてやってるわけではないというのも理解しないといけない話で、これは先ほどの「雑な善意」と話が繋がってくるわけです。

ではどうすれば、こうした頓珍漢なサービスを防げるか、というのは、これはもう技術とリテラシーを車輪の両軸としてどちらも過不足なく勉強するしかありません。これは、現場のエンジニアやディレクターだけでなく、経営層からバックオフィスまで全員が肝に銘じるべきです。

そして、変なものをリリースしようとした人を止めた人を責めない文化こそが良い方向に向かう第一歩ではないかとも思うわけです。善意は得てして主観的で、思いつきから生まれるケースがほとんどで、あまりエネルギーを消費しないものなのです。しかし、善意の暴走を止めるのには物凄いエネルギーを消費します。おまけに、善意の暴走を止めるためにかけたパワーは、マイナスを0にするだけなので、解決したとしても達成感はありません。決して、善意は何の例外もなしに無制限に受け入れられるべきものではない、ということを理解してください。

References   [ + ]

01. これです。ヒドいですよね。
02. これでもアナウンスとしては力が足りないとは思っていますが。緊急性が高いって、みんな思ってますよ?
03. よくある話としては、断片的な情報で特定の個人をフルボッコに叩いてしまうような現象ですね。